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東京高等裁判所 昭和63年(ネ)308号 判決 1988年6月28日

控訴人

右訴訟代理人弁護士

小幡良三

被控訴人

株式会社丸井

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

定塚脩

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所も、当審において提出された資料を含む本件全資料を検討した結果、控訴人の本件訴えは不適法であるからこれを却下すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決の理由説示(原判決四丁裏八行目から同七丁表七行目の「却下することとし、」まで)と同一であるから、これを引用する。

1  原判決五丁裏四行目の「である。」の次に改行の上、次のとおり加える。

「なお、本件において控訴人が被控訴人の株主に当たるかどうかは、前記のとおり控訴人が訴訟法上本件訴訟の当事者適格を有するかどうかの問題であり、その観点から実体関係をも考慮して判断すべき問題であつて、専ら実体的問題としてのみ考えるべきものではない。そして、この観点から考える場合、株主が提起すべき訴訟において、当事者が当該訴訟における当事者適格を有するかどうかは、その当事者が株主であることが実体上のみならず訴訟上もまた一義的・客観的に明らかであるかどうかによつて判断すべきものであつて、株主であることは原則的には戸籍上の氏名をもつて表示されていることが必要であるとする前記説示も、そのことをいうものにほかならない。」

2  同六丁裏一二行目冒頭の「なお」から同七丁表五・六行目の「認めることができない。」までを次のとおり改める。

「なお、被控訴人においては、控訴人が被控訴人の株主名簿に株主として記載されていなくても、実体上又は訴訟上控訴人を名義書換え前の株主として認め、その権利の行使を承認して株主であることを明らかにすることができると解されるが、被控訴人が本件訴訟において控訴人の株主としての地位を否認し、本件訴えの却下を求めていることは弁論の全趣旨によつて明らかであり、また、仮に控訴人が、本件株主総会において、被控訴人の株主名簿に記載されている「B」、「C」又は「D」であるとして議決権を行使したとしても、そのことをもつて直ちに、その氏名表示にかかわらず、その権利行使主体が控訴人の「X」であることを被控訴人が認め、控訴人を被控訴人の株主として承認し客観的に明らかにしたということはできない。

なお、≪証拠≫には、被控訴人が控訴人による本件訴訟の提起を法律雑誌「商事法務」一一二二号に公告する記事を掲載したなかで、控訴人を「(株主)X」と表示したことが認められるが、弁論の全趣旨からみて、右の記載をもつて被控訴人が控訴人を実体上又は訴訟上被控訴人の株主として承認したことが明らかであるとはいえず、右記載は、右の公告に関する限りにおいて、株主訴訟の提起者を表示する上で控訴人を「株主」と表現したにすぎないとみるのが相当である。その他甲第八号証の一「担当者必携」に「B」の本名が「X」である旨の記載がみられる(ただし、甲第八号証の二「特殊株主名鑑」では「X」の本名が「B」であるとされている。)が、右文書の趣旨自体必ずしも明らかではなく、これがある範囲で頒布されていたとしても、これをもつて直ちに株主としての「B」が株主としての控訴人「X」であることが一義的・客観的に明らかであつたとは認められない。

その他本件全資料を検討するも、控訴人が被控訴人の株主であることが一義的、客観的に明らかであることを認めるべき資料は見当たらない。」

3  同七丁表七行目の「却下することとし」を「却下すべきである。」と改める。

二  そうすると、同旨の原判決は相当であり、本件控訴は理由がないので棄却する

(裁判長裁判官 渡邉卓哉 裁判官 大内俊身 土屋文昭)

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